マジックマーケット2025初夏にて配布したエッセイです。
ブログに公開するにあたって複数修正を行いました。
プロ観客になりたい!(清水冬霞)
①プロ観客として心掛けていること
「観客として舞台に上げられた時はマジシャンであることがバレないようにヒンズーシャッフルをするようにしている」という話を聞いたことがあります。
その人なりの理由があるのでしょうが、私は同意出来ません。
観客として舞台に上げられ、シャッフルを要求された時に考えるべきことは「シャッフルしたことを他の観客がきちんと認識できるかどうか」だと考えるからです。
海外ゲストのマジックショーであれば観客も殆どがマジシャンですが、そうでない場面では一般のお客さんに混じってマジックを見ることになります。
例えばどこかのサークルの発表会を見る時。マジックショップで一般のお客さんとディーラーの演技を見る時。うそのたばこ店で一般のお客さんと共に誰かのマジックを見る時。
そのような場所にいる時私は次のことを考えています。
一般のお客さんが「良いものを見た」と思えるにはどうすれば良いか。
先程の場面で言えば、デックがシャッフルをされたことが明瞭である場合とそうでない場合でマジックの良さは異なる筈です。レイマンのフリをしている場合ではないでしょう。
我々マジシャンはマジックについての知識があるのですから、観客であってもそれを利用できる筈です。
・観客席にいて道具を渡されたならば、仕掛けがないことを他の観客が理解できるようにきちんと検めます。
・何か操作するように言われたら他の観客が分かるように動かします。
・カードを引いたときには演者から隠すようにしながらもしっかり全員に見せます。
運が良いと、他の観客が同じようなことをする際に真似てくれることもあります。
観客として出来ることは検めに限りません。
・客席の前の方が空いている場合、譲っている風を装って移動を促します。変なところから見ている人がいたときも同じです。
・クライマックスでは強めに拍手し、連続現象ではいちいち拍手しないなど、頭を使って拍手をします。
リアクションについてはどうでしょう。これは各々のペルソナに合わせるべきかと思います。
私は騒げないタイプなので、現象の後で隣の観客と目で会話するとかそういうことを静かにしています。また、ところどころ前屈みで見たり(但し技法を実行しそうな時以外)、現象後はリラックスしてみたり、緊張と緩和の考えを観客として実行するようなことをしています。
自分の行動によって観客の反応が変わるなどというのは幻想かもしれません。それでも私は他の観客の反応を楽しみながらマジックを見ています。
②観客からの質問について
マジックを見た後で他の観客から「マジシャンならタネがわかるものなんですか?」と聞かれる機会があります。私の場合返答はその時の状況、つまり演技のクオリティや観客の反応と表情によって変わりますが、これについても基本的にはその観客が「今見たものは良いものだった」という感想を持てるように考えます。また、これと同時になるべく演者を立てることを考えます。
例えば「有名で知っているものはあったけれど、○○(観客が一番驚いていたもの)は自分もびっくりした」などが無難でしょうか。
しかしながら、時々「私はタネが分かっていますよ」というような感想を聞くことがあります。3つの点からあまり良くないと考えます。
1.そのマジックへの印象が悪くなる。
観客がそのマジックを不思議に感じていたものとします。「自分もマジシャンも分からないマジック」と「自分は分からなかったけれどマジシャンなら分かるマジック」ならば前者の方が印象が良いのではないでしょうか。
2.演者に失礼。
このやり取りに対して演者にメリットがありません。マジックに於いては演者も主役の筈です。
3.タネが分かるかどうかの話をしてしまっている。
マジックはタネを見破れるかどうかのバトルだというイメージが世間一般には残っているように思います。
しかし我々はタネの分かる分からない以外の部分でもマジックを楽しんでいる筈です。それをなんとかして伝えることができればより良いのではないでしょうか。
③マジックを見る時に考えていること
「タネが分からなかった」
これがマジックを見た観客の一般的な反応ではないでしょうか。マジシャンであっても「タネが分かったかどうか」というのが感想の大きな部分を占めるように感じています。
マジックである以上、タネの分かる分からないの部分にフォーカスが当たることが間違っているとは思いません。しかしそのような感想ばかりではマジックをする方も見る方も楽しくないのではないでしょうか。感想をもらう側としても「分からない」と言われれば嬉しいですが、それだけではどうにも興醒めです。
以下、Miguel Gomezのエッセイの影響を強く受けています(詳細末尾)。
私がマジックを演じる時、その背景には数多くの選択があります。
・何故そのマジックを選んだのか。
・手法は解説されている通りなのか違うのか。
・何故解説のままなのか。
・何故やり方を変えているのか。
・セリフは。
・演じる相手は。
・シチュエーションは。
・何故人に見せられる段階と判断したのか。
恐らく皆さんもいろいろな考えを持ってマジックを演じていることでしょう。
ですから、私が人のマジックを見る場合はこれらのことを考えながら見るようにしています。
演者は何故そのマジックを演じたのでしょうか。少なくとも好きで演じているのでしょう。好きなムーブがある、考案者のファンである、はたまた単にウケるから、様々な理由があり得ます。
何故解説通りなのでしょうか。単に何も考えていないだけかもしれません。私自身は勉強の為に敢えてそのままやってみるようなことをすることがあります。
何故手順を変えているのでしょうか。より良い方法だと思ったのでしょうか。そうならば演者はそれを気に入っているのかもしれません。
セリフからは何が読み取れるでしょうか。技法の練度からは何が読み取れるでしょうか。演者が好きなマジシャンや憧れているマジシャン像が見えてくるかもしれません。どういう環境でマジックを学んでいるのか、歴はどのくらいなのかといったことも読み取れることでしょう。
そういった視点からのか感想が増えて、広がっていけば、我々の手品の世界はもっと面白いものになるのではないでしょうか。
プロ観客を目指すことでほんの少しだけマジックが楽しくなれば。
2025年6月14日明朝 発行
著者 清水冬霞
参考
①アスカニオのマジック(該当箇所不明)
アスカニオが観客として舞台に上げられた際のエピソードが載っています。
②The Joy of Magic(p.86)
Miguel GomezのWhy Do We Do the Magic that We Do?というエッセイの中で「なぜそのトリックを演じるのか」「良いマジックを見た時にどんなことを聞くべきなのか」という話が載っています。お気に入りの本です。